大阪家庭裁判所 昭和56年(家)301号 審判 1981年3月13日
申立人 松田義一
事件本人 松田礼子 外一名
主文
事件本人らの親権者を、本籍大阪市此花区○○×丁目××番亡田口せい子から、申立人に変更する。
理由
一 申立人は主文同旨の審判を求めるものであるところ、本件ならびに当裁判所昭和五六年(家)第一七〇、一七一号各後見人選任申立事件および同年第一七二、一七三号各養親死亡後の離縁許可申立事件の各記録によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 申立人は昭和四八年一二月五日新村せい子と婚姻の届出をなし、同女との間に昭和四九年五月二四日事件本人礼子、同五一年一一月一一日事件本人知也をもうけたが、その後次第に不仲となり、昭和五三年九月四日事件本人両名の親権者をいずれも母せい子と定める協議離婚届出をなした。
(2) 上記せい子は事件本人両名をつれて申立人と別居したが、申立人が事件本人に面接のため訪れていたことから、昭和五四年四月ころから復縁し事件本人らをつれて申立人方へもどり、婚姻届はなさないまま再び同棲生活を始めた。しかしその後夫婦仲は再び悪くなり、上記せい子は申立外田口一志と情交関係を持つに至り、昭和五五年一二月一六日単身家出をし名古屋市内で上記田口と同棲生活を始め、翌一七日には同人との婚姻届をなすとともに、自己が代諾して同人と事件本人らとの養子縁組届をなした。
(3) 申立人は名古屋に赴き上記せい子および上記田口に対し、せい子が帰宅することおよび田口が事件本人らと離縁することを求めたが、これが実現せぬまま昭和五六年一月一〇日上記せい子および田口は心中によりいずれも死亡した。
(4) 申立人は、上記せい子との上記協議離婚から復縁までの半年余の期間を除き、事件本人らを出生以来養育してきて現在に至つているので、事件本人らの親権者になるべく、そのために事件本人らの養父上記亡田口との離縁許可の申立をなすとともに(上記第一七二、一七三号事件)、その手続をするため自己を後見人に選任することを求める申立をなし(上記第一七〇、一七一号事件)、昭和五六年一月三一日いずれもこれを認容する審判がなされたので、本件申立におよんだ。
二 実父母・養父母の第一次的な親権と第二次的な後見とを区別し、親権を行使する者がないときに初めて後見が開始するという民法のたてまえおよび実父母の未成年の子に対する監護養育の職分は親権者として行使させるのが一般国民感情に合致しており、実父母でありながら後見人であるというのは一般常識に照らし奇異の感を免れないことを考え合わせると、親権者である実父あるいは実母が死亡等により親権を行使することができなくなつた場合、民法八三八条一号により後見は開始するけれども、他方非親権者の他方実親も親権者たり得べき地位を回復するものと解すべく、その者から親権者変更の申立がなされ、その者に親権を行使させることが子の利益・福祉に合致すると認められる場合には、家庭裁判所は民法八一九条六項により親権者をその者に変更する審判をなすことができ、これが確定したとき一旦開始した後見は終了するものと解するのが相当である。親権者変更の審判により一旦開始した後見が終了するのであるから、その審判は後見人選任の審判の前後を問わずこれをなすことができるものというべきである。また上記の理は親権者である養父母が死亡し、その亡養親と養子である未成年者との離縁を許可する審判がなされ、亡養親との養親子関係が解消された場合の非親権者実親についても同様にあてはまるものといわねばならない。
そうすると本件のように共同親権行使者であつた養父・実母夫婦が同時に死亡し、亡養父と未成年者養子である事件本人らとの間の死後離縁許可の審判がなされた場合には、生存非親権者実父である申立人は、亡養父との関係においても、亡実母との関係においても、親権者たり得べき地位を回復するものと解すべく、申立人に親権を行使させることが事件本人らの利益・福祉に合致すると認められる場合には、親権者を申立人に変更することができるものというべきである。なお申立人は養父・実母同時死亡により一旦開始した事件本人らの後見につき、上記のように後見人に選任されているが、上記後見は本件を認容する審判の確定により終了すべきものであり、その後見の後見人に申立人が選任されたか、第三者が選任されたかにより、後に申立人に親権者を変更することができたり、できなくなつたりすると解さねばならない理由はないというべきであるから、申立人が現に事件本人らの後見人であるということは、本件を認容するについて何ら障害とはならないものといわねばならない。
三 そして、上記一に認定の各事実からすれば、申立人に親権を行使させることが事件本人らの利益・福祉に合致することは明らかであるから、事件本人らの親権者を申立人に変更するのが相当であり、これを求める本件申立は理由があるから認容することとする。
(家事審判官 山崎杲)